カターニャは二度目なので、お疲れ休みかたがた(夫は前日の深夜にイタリア入りしたから。)町をぶらぶらしていると、カターニャが誇る、ヴィンチェンツォ・ベッリーニの名を冠したベッリーニ劇場にたどり着いた。もう、バカンスシーズンは終わったのでここではオペラ見られないよね、と思っていたら、その日はマスネ作のオペラ、ウエルテル(原作:ゲーテの若きウェルテルの悩み)の楽日だった。しめしめというわけで、早速残っている席の中で比較的良い席(平土間の中央最後の列)をクレジットで買った。(このときも回線が何度か不通になり時間がかかった。)
イタリアでオペラを見る楽しみの一つは人々の服装である。イタリア人の多くは、町歩きの時、あたかもそれが制服であるかのように、ジーパンをはく。上着もそれにあうようなラフなものが多い。(だから、日本のお嬢様方がエレガントなワンピースを召して、ハイヒールをはきながらタクシーにも乗らずスーツケースをころころひいて歩く姿は相当に人目を引く。)だから彼らが粗末な服しかもってないと思うのはとんでもない大間違いだ。
その日は黒いシックな服に大粒の真珠のネックレスをしたご婦人が多かったが、あれはまがい物でなければ家代々に伝わったものだろう。来場者はゴージャスなアクセサリーをつけ、エレガントなバッグを持ち、精一杯着飾ってきていた。私にとってうれしかったのは、イタリア語の字幕がついていたことだった。何故ならそのオペラはフランス語で上演されたから。(イタリア語での上演なら字幕はつかない。多少ならイタリア語がわかる私だが未知の作品の台詞を追っていくほどの能力はないので、字幕付きと分かった時は本当にうれしかった。日本人だって歌舞伎の台詞はなかなか聞き取れないようなものだ。)
初見の作品だったので懸命に字幕を追っていると、突然、よく聞き知っているアリア(主役のテノールの持ち歌)が始まったので、私は全身全霊を傾けて聞き入った。あれを聞くだけで出かけた甲斐があったというものだ。恋物語を演じるには少し太りすぎで、背も低かったのだが。ピストル自殺したのに何時までも息が絶えず、エレジーが続くのは不自然だが、オペラでも歌舞伎でも見せ場は長くなるのだから仕方がない。中休みに軽食を食べてから最後のカーテンコールまでいたらもう夜もふけてしまったが、ホテルまで歩いて帰った。
因みに
席料は一人前48ユーロだった。驚くべき安さである。日本だと天井桟敷でもこの値段では見られない。
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