極上なエスプレッソは濃厚牛乳くらいの粘度があり、デロリとしたまろやかな
舌触りで、香り、苦味、酸味の三要素がバランス取れていること。表面にはクレマ
(crema)と呼ばれるクリーミーな泡がなければならない。この泡は9気圧以上の
高圧で急速に抽出された時にできるもので、家庭用の直火式とか簡易電気式の
マシンで作ることは不可能だ。砂糖を入れてもそのクリームの上に乗っかって
沈まなければ出来具合は合格である。これをちびちびと飲んではいけない、
さりとて一口で空けてしまうのもよくない、2,3口にわけて芳香も楽しみながら
2分間くらいかけて飲む。飲んだ後、30分くらいは味わいと香りが残るので、
量が少なくても日本式のコーヒーを飲んだような量的な満足感がある。バールで
飲むエスプレッソは小さなデミタスカップの半分くらいの量だ。ローマへ行くと
ミラノよりもっと量が少なく、しかし濃厚さはもっと強くなる。バールによっては
ほとんどひと舐めの分量しかない場合がある。これにイタリア人は、砂糖を大量に
入れる、スプーンでかき混ぜるとほとんど、どろどろ状態で飲むというより舐める。
まあこれは下品で下町風飲み方であるが。そう言えば日本の砂糖パックは近年、
ダイエットかどうかしらないがどんどん容量が少なくなって通常3グラム程度の量
になってしまったが、イタリアは10グラムくらい入っていると思う。
デミタスカップは厚手の白磁で重くゴロンとした感じで、縁が丸みをおびている
ものがよい。ジノリやロイヤルコペンハーゲンなど名陶の薄手のカップもエレガント
であるが、唇に接触した時の感触はあの厚手縁のカップの方がよい。
あの濃厚な褐色の液体を飲むためには、それに負けないくらいの意思を持った器
でないとだめである。ローマのエルグレコとかミラノモンテナポレオーネのコバは
さすが優雅なジノリのカップであるが下町のバールでは、このゴロンが多い。
家庭用エスプレッソマシンの最高峰はパボーニ社の密造酒製作機のようなデザイン
の大型マシンだ。テッペンに鷲の飾りがついており、正にコーヒーマシンの
ロールスロイスと言える。ミラノに行く度に買って帰ろうと思うが、我が家の台所
のスペースを考えると実行に移す勇気がない。
コーヒー豆はアラビカ種100%でillyかsegafreddoのものがおいしい。
カプッチーノはミラノ方言ではカプッチョと言う、ローマのバールでカプッチョ
と注文したら「お前はミラノ人か?」と言われた。カプッチーノは朝飲むもので
午後は飲まない。カプチーノ用の大きめのカップにエスプレッソを半分注ぎ、
その上にlatte
scchiuma(蒸気で泡立ててた牛乳)を静かに注ぐミルクの泡が盛り
上がってカップの縁を越えることもある。これも砂糖を入れても沈まない堅いミルク
泡を本筋とする。戻る