ペースダウンライフ

           マクドナルドはミラノ、ローマ等の大都市ではある程度成功し、イタリアにも定着しつつあるが、15年くらい前に
         イタリアに上陸作戦を始めた時には時期尚早で失敗したことがある。

         丁度その頃スローフード運動は、ファーストフードに対抗して始まった。
         消費経済の拡大だけを追求するファーストフードは、材料手配の効率化のため安価な身元不明の食材を
         世界中に求め、長期保存のためにあらゆる科学的手段を駆使する。24時間営業で、そこで働く人は効率化を
         求められ、接客応対までマニュアル化して働く喜びを人間から奪い去る。                      

         伝統的な質のよい食材を使い、料理に手間ひまをかけ、ゆったりと食事を楽しむのが、イタリア人にとって本来
         の姿です。このスタイルは食事だけに限らず、人々の生活意識にまで浸透しています。イタリアでは24時間の
         コンビニは見当たらないが、市政で商店の営業時間の規制をしているからです。

         バーゲンの期間も抜け駆け競争しないよう規制している。それでも政府はEU社会に適応を目指して営業時間
         規制を緩和しようとしたら、小売業団体のConfcomercioから大反対をされた。非人間的な長時間労働、それに
         ともなう労働内容の質の低下などが懸念されるという理由です。

         日本は現在、イタリアの逆方向に進もうとしているのではないだろうか。24時間コンビニが乱立し、ハンバーガー、
         牛丼業界では競争相手が倒れるまでの熾烈な戦いを繰り広げている。労働コストを押さえるために極端な合理
         化、例えば今まで両手に1杯づつ牛丼を持って客席に運んでいたのを、2杯づつ4杯を一度に運ぶようにマニュアル
         化したり、客の回転率を高めるために、椅子の座りごこちを悪くするため小さくしているのではないだろうか。

         そこに働く人々も、お客も動作に「スピード」を要求され、正体不明のブラックボックス材料を使った食品を食べさ
         せられる。日本のニワトリは狭く仕切られたケージの中で、化学飼料を食べさせられ最大効率で生む卵は工業製品
         になってしまった。温室栽培で一年中いつでも食べられる、しかし全く味のないカタチだけの野菜もどき、
         病気を防ぐために大量の薬品を含んだ人口餌で養殖される魚、、こういう食べ物しか食べられない日本で味覚の
         わかる子供は育つのだろうか、アトピーや骨粗鬆症がますます蔓延するのではなかろうか。

         イタリアの卵の殻は厚く、黄身はもりあがって割れない。イタリアのトマトははるか昔、子供の頃に食べた甘い味
         を思い出させる。自然の海で採れた魚は身が引き締まっている。

         もう合理化、効率化だけ目指したライフスタイルは人間社会の質を低下させ、破壊に導くだけかもしれない。
         ゆったりとしたイタリアの生活こそ楽しくて豊かな人間の正しい生き方だと思う。

         日本も不況で失業者が増えているので、仕事に携わる人間は益々忙しくなる。仕事を分割して、みんながシェアー
         すれば収入は減るが労働時間は少なくなり、過労死で死ぬような人もなくなる。収入が減っても少しの不便さを我慢し
         無駄を省けば生活の質は落すことはないと思う。美味しい食べ物、美味しい空気、スローな生活を楽しんでいる
         イタリア人を今こそ見習うべきです。

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