3☆リストランテ
ミラノに“Gualtiero
Marchesi”というミシェラン3星のレストランがあった。
高級レストランと大衆レストランの大きな差はどういうものか、このレストランを
経験して始めて理解できた。
入り口を入ると待ち合わせのためロビーがある。
ここでいっしょに食事をする人を待つ間、アペリティーボなどで喉を潤す時間
をもつわけで、食事への期待が高まる。マルケージ氏がいままで著作した料理の
美装本が並べられており、日本の出版本もある。
テーブルに案内される、室内はパリの高級レストランとは趣きが異なり、シンプルに徹している。
テーブルクロスもナプキンもプレスのきいた純白のもので気持ちがよい。まずサーブする人間の
数が多い、キッチンもさりげなく内部の様子が見えるのも演出の内に入っている
のだと思われるがコックの人数も多い、前菜、メイン、デザートなどのアイテムに
よってそれぞれ専門の担当を振り分けているのだろう。
カメリエーレもスイス、ローザンヌのホテル学校で修業してきたと思われるマナーを
完ぺきに身に着けているようだ。アペリティーボの選択からメニューの説明、食器のならべかた、
どれも遅くもなく早くもない速度で、それぞれの担当給仕の作業が、ゲストが
リラックスできる時間の流れで進められる。
使われる食器はジノリのビアンコで、ナイフ、フォーク類は銀器である。
銀80%以上のものは政府の銀検定局の小さな刻印が入っているのでわかる。
各テーブルには担当のカメリエーレが割り当てられており、常に客の食事の進み具合を少し離れた
場所でさりげなく観察しており、絶妙のタイミングで次の料理を出してくれる。
蓋を開けてくれる。おいしい香り、色合いが一瞬に目に飛び込んでくる。蓋は料理を冷めないように
するだけでなく、このように料理を演出するのに重要な役割を持っている。
適当な頃を見計らって御大、マルケージ氏が登場し、各テーブルを挨拶する。
ルーコラが香ばしくておいしいと言うと、自家栽培の畑で取れたものだと、畑
の写真まで持ってきて説明してくれる。
最後のデザートは我々が日本人だと知り盆栽のデザインをほどこしたドルチェが出てきた。
ジェラートも自家製で、満腹にもかかわらず、もう一皿食べたいと思うほどの味だった。
このGualtiero
Marchesiも功成り名遂ぐ、勲章までもらって頂点を極めたのか
10年前にミラノを引き払いイゼオ湖の近くErbuscoに瀟洒なホテルレストラン
を開店した。私の料理をどうしても食べたい人は、何の変哲もないド田舎へ、
来てくださいという趣向だ。
一度だけ行ったことがあるが、古いお屋敷を改造した隠れ家のようなレストランだった。
パーキングにはフェラーリ、ポルシェなど高級車が駐車しており、私のぼろクルマが恥ずかしかった。
金持ちは併設のプチホテルに1週間以上泊まり込み、美味三昧の悦楽料理を堪能
するのだろう。
久しぶりに再会したマルケージ氏いわく、新鮮で最高の材料を
手に入れるため、レストラン自体を素材産地の真中に引っ越してきたと。
しかし今年2000年版ミシェランは2星しか与えていない。
ミラノのリナシェンテ最上階にあるGualtiero
Marchesiは名前を貸しているだけ
で、本家の味とは似ても似つかぬものである。また地下には彼の食品コーナーも
ある。この辺が2☆に凋落した原因かもしれない。戻る