海外に長く住んで久しぶりに帰国すると、何かこの国はおかしいと気付くことが
多々ある。日本の市中風景で軍人姿が見られないのに違和感を覚える。
イタリアでは地下鉄で、バールで制服を着た軍人が目についても普通の光景だ。欧州では
イタリア、ドイツ、スイス、オーストリア、ポルトガル、スペイン、デンマーク
、スエーデン、フィンランドが完全徴兵制をとっている。その他の国も徴兵制と
志願制を併用している。日本が徴兵制を採用していないのは幸いだ。
外国ではいたるところでその国の国旗が翩翻とひるがえっている。例えば駅、
市役所、学校などなどで掲げられている。そんな状況の中で日本大使館など日の丸を
見ると、当たり前のことだが、外国に身を置いてこそ自分は日本人なのだと強く
自覚する。
日本にいると国籍は空気のような存在で、それについて深く考えることは
しない。ミラノ日本人学校の運動会ではいつも日の丸が掲揚され、君が代を全員起立
で唱する。そんな時、遠く離れた異国の地で自分はがんばっているのだと
確信できる。
イタリア人は自国に過剰なほどの愛国心をもっている。この場合の自国
とはイタリア政府を指しているわけではなく、自分の住んでいる場所についてだ。
ミラノ人はミラノを愛し、ローマ人はローマを愛する。自分の居る場所が世界で最高
だと思っている。いわゆる郷土愛(Campanismo)だが日本の比ではない。
イタリア最大の企業フィアット社はトリノにあるが、高級幹部社員がかたまって
住んでいる、山の手地域は素晴らしい環境なので、誰も出たがらない。
フィアット社の海外進出が全然はかどらないのはその理由だと断言する人もいる。
イタリアの人口は約6000万人で首都のローマには約300万人が住んでいる。
東京の10%に比べてその半分の5%の人口集中率だ。第二の都市ミラノで
160万人、その他、ボローニャ、ベネチア、フィレンツエ、トリノなど中堅都市
があり、地方都市がちらばっているが、その土地で生まれ、その土地で一生を送る
人がほとんどだ。
日本のように東京、大阪に出て働く都会志向はない。人口がほど
よく分散されているから土地がもゆったり有効利用されている。しっかりと土着した
Identityを各自が持っている。それぞれの街もIdentityを持っており、例えば南仏に
ドライブする場合、カンツオーネで有名なサンレモを通り国境の町Ventimigliaに
至る。
高速道路上で国境を越えた瞬間に空気がイタリアからフランスに変わるのが肌
で感じられる。立ち並ぶ家並みのテンダ(日除けカーテン)がイタリア側はグリーン、
フランス側はブルーに統一されている、これは多分国旗の色からきていると思う。
それで確かにフランスに入国したと実感がわく。不思議なもので空気までフランスの
味がする。眼下に見る地中海の水の色もイタリアとフランスと若干違うのは気のせい
だろうか。(22/Sep/2000) 戻る