不正乗車

地下鉄の切符はキオスクもしくはエディコラと呼ぶ、新聞スタンドで買う。

自動販売機もあるが、故障している場合のほうが多いから誰も使わない。

一枚1,500リラ、だいたいエスプレッソコーヒー一杯の値段と連動している。

私が始めて地下鉄に乗った1989年もコーヒーと同じ700リラだった。

回数券(Carnet)14,000リラで10回分乗ることができる。どこまで乗っても

均一料金で75分間有効。この時間内なら地下鉄、バストラム(市内路面電車)

に乗り継ぎ可能。但し同じ路線を戻るのは禁じ手です。地下鉄の改札口は無人で

機械式の刻印機で乗車時間をガチャンと印字すると回転ドアのロックが外れて

1人づつ入場できる。磁気記録などでなく完全なローテク方式で、切符ではなく、

よく似た紙片でもガッチャンできるし、一度使った切符をもう一度、差込んでも

印字は重なるものの、何回でも使えてしまう。実際、そういう方法で不正乗車

しているイタリア人も多数(2割くらいとのうわさもある)いる。地下鉄の出口

も無人で一方通行のドアからそのままフリーパスで出られる。バス、トラムは

ワンマンなので、車内に小型の刻印機が取り付けてあり、乗車したら、

すぐ刻印が義務付けられている。これも刻印しなくても乗降車はフリーの状態。

人間は本来、善であるとの確信のもとに成り立っているシステムである。

時々、地下鉄の車内、出口、バス停などで職員が抜き打ちで不正乗車の取り

締まりをやっている。この時、正しく刻印してある切符を提示できないと罰金を

取られる。私の経験では一年に一回ぶち当たるかどうかの確率です。イタリア人

に言わせると確率的には少ないので罰金を払う方が、切符を買うより安上がりだ

との意見だが私もそうだと思う。ただ私自身は、ミラノでは外国人だから悪い

ことはしたくないし日本よりかなり安い料金なので、不正乗車をしたことは

一度もない善人で通している。こんないいかげんな交通システムだが、

日本よりトータルで優れていると思う。日本のようにコンピュータを駆使した

発券システム構築には莫大な資金投資が必要だ。その点、ミラノの交通システム

は維持費が人件費も含め、かなり安く運営されていると思う。2割の不正乗車を

取り締まるためにハイテック機器を導入するコストより見逃すほうがコストが

かからず、トータルで利益が出ると地下鉄総裁が判断したに違いない。

第一、貧乏人は無料で乗れてしまう、人間に優しいシステムだ。よく車内で

ジプシーが物乞いをやっているが、切符を買って乗っているはずないよね。

一時はユーゴスラビアからの難民だと言って物乞いがよく地下鉄にいたが、

あんな流暢なイタリア語を話せるのはおかしいと思いつつ、お金を恵んでいる

おばあさんもいるのがイタリアだ。そう言えば、地下鉄でとなりに座った

きちんとした身なりの紳士に、突然1,000リラくれませんか?といわれたのは

何だったんだろう?(22/Sep/2000) 戻る