BAR

いったいイタリアには何軒のバールがあるのだろう?石を投げれば当たるほど

多い。それもどういうわけか2階とか地下にあるバールは見たことない、

全て道路に面した1階だ。これだけ多いバールだが全国チェーン規模のバール

なんていうのもない。その地域に密着した個人経営だ。イタリア人には自宅の近く

と会社の近くにいきつけのBarがある。そこは友人と会う場所でもあり情報交換の

大切な場所でもある。これがバールの最も大切な要素だと思う。おやじの人柄で

繁盛しているバールもある。お酒、タバコ、新聞雑誌、キャンディ、ちょっとした

食事も出来る万能の場所で日本のコンビニ以上の役割をはたしている。

もっとも大きなターミナル駅とかホテルを除いて24時間開いているBarはない。

日曜は閉めるところがほとんど。ミラノのBARは8月に一ヶ月のバカンスで

閉店する。Barには営業許可証によって2種類のタイプに分かれる。

Tavolacalda(熱いテーブル)は火を扱える調理が出来るので揚げ物など出せるが、

Tavolafredda(冷たいテーブル)は火気が使えず調理したものを温めることだけ

できる。Tavolafreddoではサンドイッチとかパニーノが主体のランチになる。

ミラノで(冷たいテーブル)の許可しか取れない日本食レストランがあったが、

天ぷらはメニューになく、もっぱら寿司専門でおいしかった。

バールにはこのように食事の出来るところもあり、トトカルチョの賭け受付所も

兼ねているところもある。これは店に備え付けの用紙に勝ち負け引き分けを記入

してPC端末で入力して受け付けてもらう。コーヒーを飲みながら予想で喧喧諤諤、

さながら場外馬券売り場の様相になってしまう。下町のバールでは奥の部屋が

ビリヤードになっていたり、トランプのカード遊戯テーブルの部屋があったりする。

そこでは年金生活者の老人達が朝からわずかなお金を掛けて時間をつぶしている。

サラリーマンの朝食はオフィスの近くのBarでカプチーノにブリオッシュが

定番である。朝食と会社の同僚との情報交換も同時に出来るし、地元の人間がいる

からあらゆるニュースが手に入る。イタリア人はあまり新聞を読まないのでバール

が貴重な情報収集源となる。

昼食もバールで取れる。パニーノ(イタリア風サンドイッチ)とか簡単な

ピアットウニコ(一皿定食)を用意している。イタリアは公衆トイレが少ないので、

これもバールがその役目を引き受けている。バールは喫茶店、タバコ屋、

ゲームセンター、駄菓子屋昼食屋、トイレを兼ねたオールマイティのコンビニより

便利なショップだ。

Barの支払いは通常はまずレジ(Cassa)でお金を払って、レシート(Scontrino)を受け

取り、それをカウンター(Banco)で提出して注文の品を受け取ることになるが、後払い

でもよいところもある。いきつけのバールでは回数券を買うと一割程度安くなる、

11枚つづりのチケットになっているものもあるが、私が通ったバールは

昔なつかしい電車の改札口で使う切符きり様のものでパチンと穴を開ける

カードだった。穴を開ける場所に黒人の顔(kimboコーヒーのトレードマーク)

が11個ならんでいて、一杯毎に黒人の顔をパチンと潰していくのは人種差別では

ないだろうか?コーヒーを頼んでも、日本のように自動的に水は出てこない、

但し頼めば水道水をくれる。これは只だ。ミネラルウオーターの場合は

もちろん有料である。またテーブル席に座った場合はバンコで立ち飲みする場合の

1.5倍の割増料金になる。さてミラノで一押しのBarはナビリオ(運河地域)の

橋に面した”Bar Pallone”,だ。100年前のミラノの古い写真集にも今のままの姿で

載っており、外観、内部とも変わっていない化石的Barである。

この辺は学生、ミュージシャン、アーティストがたむろするミラノの

カルチェラタンだ。晴れた日は道端のテラス席もよいだろう。近くに撮影スタジオ

とか有名ブランドのショールームが多いのでミラノコレクションでよく見る、

スーパーモデルも御用達である。このPalloneの対極はモンテナポレオーネの

Covaだろう。白衣に蝶ネクタイの老練のバリスタが、買い物に疲れて一休みする、

大金持ちのシニョーラにジノリのカップでエスプレッソを優雅にサービスしている。

日本人の観光客がウエストポーチにリュック姿で行けば冷たくあしらわれる

のでご用心。戻る