鼻つまみのコート10/Sep/2000

イタリア人は一般的に日本人と異なりファッションで流行を追わない人種だ。

ただし例外もある。90年代初頭より、英国製のBarbour社製のワックスコートが

イタリア中で大ブレイクした。イタリア人はバルボアと発音するが、英国では

バーブアーだろうか?100年以上の歴史のあるハンティング用品の老舗で、頑固

に昔の製法にこだわっている。まだナイロンとかゴアテックスが発明されていない

頃に作られた古典的手法で作られている。
 

コットン100%の素材にオイルコーティングを施し、買ったすぐには動物性のオイルが

ぷんぷんと匂い、べとべとしている。しかし長年、着ているとギトギトの油性も程よく落ち、

英国独特の濃緑色もジーンズの色落ち同様少し明るい色に変化してくる。

昔ながらのデザインのままで、バーバリのコート同様いつまでも新鮮。そして

年月が経つにつれて何ともいえない風合いになり愛着を感じる。このコートを

高校生から年配者まで男女を問わずイタリア人が着るようになった。ブームが

起こり始めた頃、ロンドンのBarbourの本店に立ち寄る機会があったが、店内は

イタリア人だらけ、イタリア人の店員は、日本人の私に「バーバリの店は隣だよ」

と言ったくらいだ。
 

この流行は流行で終わらず、今では寒い季節にはイタリア人の定番スタイルに

なっている。秋から冬にかけてミラノ市内では、5人に1人はバルボアを着ている

だろう。襟がコーディロイで、渋い緑色のアウターポケットだからすぐわかる。

ミラノ大学の学生はこのバルボアとリーバイスの501にインビクタのリュックが

今ではスタイルとして定着した。
 

さて着心地だが、厚手のコットンにオイルが刷り込んであるから、重い、臭い、

ゴワゴワしている、英国の厳しい気候に合わせてあるから通気性もよくない。

でも何となく愛着がわき、私は10年以上着ている。何と言っても王室御用達の

マークが付き、かのチャールズ皇太子も愛用している。
 

イタリアで流行したファッションは数年後、必ず日本でも流行するのだが、

これだけは不発で終わっている。

実は日本でも売られているのだが今ひとつぱっとしない。

やっぱいり臭くて、油ギトギトのバルボアを着て日本で満員の通勤電車に乗る

勇気は起こらないのが理由だろうか。

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